「アール・ド・ヴィーヴル(l'art de vivre)」は日本で語られる時、しばしば「暮らしの芸術」と訳されます。けれど、それは少しずれている、と私たちは考えます。フランス語の art は本来、「技(わざ)」「流儀」「方法」の語感を持つ言葉です。
フランス語の art は、ラテン語の ars(アルス)に由来します。これはギリシャ語の technē(テクネー)と同じ系譜で、本来の意味は「技・術・流儀・方法」。私たちが日本語で「美術」「芸術」と聞いて思い浮かべるものとは、別の世界に属する言葉です。
ですから l'art de vivre は、より正確に訳せば「暮らしの技」「生き方の流儀」となります。屋号 L'art de vie もこれを受けています。芸術寄りに見える名前ですが、語源にさかのぼれば技を中心に据えた言葉です。
l'art de vivre は、ルネサンス期のフランスに源を持ち、食・住・人・時間との関わり方を、丁寧に・緻密に・長く保つように営む生き方の哲学として語られてきました。
ここで見落とされがちな核心があります。この概念は、フランス文化の中で常に savoir-faire(サヴォアフェール = 職人技・技術的習熟)と不可分に語られてきたということです。高級料理も、オートクチュールも、ワイン醸造も、建築も — 「丁寧で美しい暮らし」と呼ばれるすべての領域は、高度な技術なしには成立しない。フランス文化の前提として、技が暮らしの土台にあります。
つまり l'art de vivre は、表層の美しさを愛でる言葉ではなく、「技に裏付けられた、暮らしの作法」を指す言葉なのです。
私たちの仕事の中心は、構造計算・温熱計算・パッシブハウス設計・BIMといった、現代の建築における savoir-faire(技)です。数値が確かに揃わなければ、安全で快適な住まいは成り立ちません。
ですが、その技の目的は数値そのものではない、というのも事実です。私たちの技は最終的に、誰かの暮らしを設計することに向けられています。家族の時間、家の中での所作、長く愛着を持って住むこと — それらを成り立たせるための技です。
「L'art de vie」という屋号は、この二つ — 技と暮らし — を分けずに掲げるために選んだ言葉です。芸術寄りでもなく、技術寄りでもない。両方が一つの語の中に元から含まれている、そういう屋号です。
私たちが大事にしていること
技を、置き去りにしない。
暮らしを、こぼれ落とさない。
数値や図面を、暮らしから切り離さない。逆に、暮らしを語るときに技を端折らない。l'art de vie という屋号は、その両輪を覚えておくための合言葉です。